赤田丞 AKADA Tasuku
東北大学法学部4年
岡山県出身。現在、東北大学法学部に在籍、卒業後は大学院に進学予定。
広い見識を持つ法曹になるために、法律の勉強の傍ら、多様な課外活動に取り組んできた。
インタビュー実施: 2021年12月21日
法学部での活動 ―ゼミや司法試験について
-専攻についてお聞かせください。
法学部では、専攻について説明するのが難しいです。ゼミや卒論が無いということもあり、他学部のように「専攻は〇〇です」と端的に表すことができません。ただ、司法試験を受けるので、そのために必要な科目については、専門的に学んでいると言えます。
-では、司法試験に必要な科目の中で、興味を持って取り組んでいる科目はありますか。
全て面白いですが、最近ずっとやっているのは民法ですね。特に譲渡担保について勉強しています。やや専門的な話になりますが、譲渡担保について大まかに説明します。まず、民法という法律の中に、財産法というお金に関わる法律があり、さらにその中に担保物権法という法律があります。物権法というのは、簡単に言うと「所有権とはどのようなもので、何ができるのか」ということを考える分野です。その中でも担保物権法は、「お金を貸した相手が返してくれない時に、どのようにしてそのお金を回収するか」というようなことを考える分野です。今興味をもっている譲渡担保は、その担保物権法の中の1つの分野です。
譲渡担保の面白いところは、まだ六法全書に載っていないロマンあふれる分野であることですね。みなさんもご存じかもしれませんが、六法全書という法典にはありとあらゆる法律が載っています。しかし、譲渡担保は解明されていないことも多く、未だ明文化されていません。このような点を興味深く感じています。
-赤田さんは岡山県出身とのことですが、なぜ東北大学への入学を決めたのですか。
私は法律以外の学問にも興味があって、高校時代はとくに犯罪心理学を学びたかったので、その講義を受けられるかどうかで志望校を絞りました。なぜ犯罪心理学に興味があったかというと、当時は検察官になりたかったので、被告人の罪を追及する時に「なぜ人は罪を犯すのか」という心理的なメカニズムを理解しておきたいと考えたからです。犯罪心理学の講義があるという条件と自分の学力を考慮した結果、東北大学がマッチしました。
ただ、この話には余談があって、入学してみたら法学部生は犯罪心理学の講義を受けられないとわかりました(笑)。リサーチ不足ですね。結局、夏休みに図書館にある分厚い専門書を読んで、「なるほどこんな感じか」となって満足しました。
-法学部でのゼミについてお聞かせください。
厳密に言うと法学部にはゼミというシステムが無いのですが、先生と議論をする「ゼミのようなもの(以下、「ゼミ」と称します。)」は存在していて、いくつも入ることができます。また、半期ごとに変わるという仕組みになっています。私も色々なところに入りました。法律よりも政治学の方が多く入りました。
-印象的だったゼミはありますか。
中国政治のゼミは未だにしっかり覚えています。ゼミに入る前にその先生の授業を受けた時に、「ナショナリズム」という1つのキーワードをもとに清末から現代までの全ての中国政治を説明するという素晴らしい講話を聞き、感銘を受けました。それからゼミに入った後も、目からうろこの連続でした。特に印象に残っているのは、「君たちは日本の政治家に対してはすごく批判的な目を持っているのに、なぜ社会主義、というか独裁に近い、民主主義でもない中国が公表するデータに対しては、絶対的に信じて疑わないんだ」と言われたことです。確かにそうだなと思い感動しました。
-ゼミを選ぶ法学部の1年生に向けてアドバイスをお願いします。
あまり考えすぎず、自分の興味関心に従って入ればよいと思います。ただ、ゼミについていくには、該当分野の知識がある程度必要です。その分野の授業を受けず、ただゼミだけに入ると、ついていくのが難しいかもしれません。ですから、1年生のみなさんは授業をちゃんと受けましょう。私はちゃんとやらなかったことを後悔しました。
-続いて、司法試験についてお聞きしたいと思います。受けようと思った理由は何ですか。
私は小さい頃から体が弱く、お医者さんに助けてもらうことが多かったので、はじめは医者を目指していました。しかし、勉強するうちに自然科学より社会科学の方に興味があると気づきました。また、私は人と話すことが好きでした。それから自分の興味関心や、弁が立つことを活かせる職業は何かを考えた結果、弁護士や検察官、裁判官などのいわゆる法曹という職業に就きたいと思うようになりました。このような理由で司法試験の受験を決めました。
-司法試験の勉強で大変なことは何ですか。
内容の難しさはもちろんのこと、8科目あって範囲が莫大なので、全ての分野を網羅的に学習することがとても大変ですね。
-どのようにしてモチベーションを維持しましたか。
長年法律の仕事に憧れてきたことはモチベーションにつながっている気がします。あとは、司法試験に合格した自分をとことん想像したり、苦しいと感じる度に「苦しんだ分、頑張った分だけ、将来役に立つ」と考えるように心がけています。
-司法試験を受ける1年生に向けてアドバイスをお願いします。
まだ合格していないので偉そうなことは言えませんが、強いて言えば、わからなくて不安に感じても、最初はそれが普通なので安心してほしいということですね。法律の勉強は最初から全体を理解することは難しいです。民法なら民法、刑法なら刑法といったように全ての科目を個別に学んでから、全体を見渡し、再び個別に戻るという流れで学習すると、効果的だと思います。
大学の授業はどうしても90分間で終わらせなければならないので、部分的な学びになりがちです。しかし、例えば1つの権利について見ていると全然わからないことでも、全体を見て他の権利と比べるとわかりやすくなることがあります。ですから、1年生のみなさんが全然わからなくて不安に感じても、それが普通であると意識してよいと思います。私も1年生の頃は「どうしてこんなことをしているんだろう」と思っていましたが、少しずつ理解できるようになると、「楽しい、もっとやろう」と思えるようになりました。4年生くらいになると、しだいに見えてくるものがあると思います。
課外活動 ―ボランティアサークル、塾講師のアルバイトについて
-大学では、どのような課外活動をしましたか。
色々取り組みましたが、長く続けたのはボランティアサークルと塾講師のアルバイトです。
-では、まずボランティアサークルについてお聞かせください。
福島県を活動拠点とし、津波被災者や原発避難者の方々が住む団地でコミュニティー形成活動を行っていました。コミュニティー形成活動では、まずお互いについてよく知ってもらうことが大切です。ですから、地域の方々が参加できるお茶会イベントや、子どもたちが楽しく遊べるイベント、クリスマス会のような季節のイベントなどを企画・開催しました。できるだけ地域のみなさんに楽しんでもらえるよう、活動を考えました。
写真:原発避難者の方々が住む団地でのクリスマス会
-そうしたコミュニティー形成活動において、印象に残っている出来事はありますか。
お子さんが成長する姿を見られたことは印象的でしたね。1年生で活動を始めてから、実際に通えた期間は2年間くらいですが、それでも月1〜3回くらいのペースで訪れていたので、背が伸びたなとか話せるようになったなとか、そうした成長を感じることができました。
-子どもの成長を見届けられるのは素敵なことですね。サークルに入ろうと思ったきっかけはなんですか。
私は岡山県出身ということもあって震災についてあまり知りませんでした。ですから、東北大学に入るなら震災について学びたいと思いました。活動先を福島にした理由は、津波・地震だけでなく原発についても学びたかったからです。
-サークルに入ってよかったと思うことはありますか。
自分と関わりのなかった社会にアクセスできるというのが大きいですね。僕たちはすごく恵まれた環境にいて、勉強をしています。なんというか、勉強っていうのは贅沢品なんだなと、強く感じました。
-確かに、サークル活動をしないと得られない、人や社会とのつながりがありますよね。1年生のみなさんにも、ぜひその点を心にとめてサークル選びをしていただきたいです。では、続いて塾講師のアルバイトについてお聞きしたいです。
1年生の夏から、平均週3回、多い時で週5回のペースで塾講師のアルバイトをしていました。国語を中心に、全科目(国数英理社)を教えていました。学力は一朝一夕で変わるものではないので1年目は大変でしたが、続けるうちになんとかなりました。
-アルバイトとして、塾講師を選んだのはなぜですか。
当時から弁護士などの法曹になることを目指していたので、塾講師として子どもたちにわかりやすく勉強を教えることが、弁護士として自分の考えを依頼人の方にわかりやすく伝える練習になると思ったからです。あと、子どもが好きだったからというのもあります。
-大変なことや、やりがいはありますか。
成績が上がらないまま生徒が辞めてしまった時は、心にくるものがありました。自分の何が足りなかったのか、どうすればよかったかをずっと考えていました。一方で、成績が上がったり、生徒が第一希望の学校に合格した時は、とても嬉しく、大きなやりがいを感じました。
-どのような人に向いていると思いますか。
勉強ができる人というよりはむしろ、できない子の気持ちに立てる人の方が向いている気がします。生徒の話をよく聞いて、なぜできないのかを理解する根気強さが必要だからです。私も、常に生徒がどこでつまづいたのかを考えながら業務にあたっていました。
様々なことに熱中した中学高校時代
-中学高校時代についてお聞きしたいです。何か取り組んでいたことはありますか。
中学では、サッカー部での活動と、生徒会副会長としての活動に取り組んでいました。高校では、オーケストラ部でチェロを演奏し、副部長を務めていました。
-スポーツに音楽に生徒会と、幅広い分野で活躍されていたのですね。生徒会では、どのような活動をされたのですか。
生徒の要望を先生に伝えるなど、生徒と先生を橋渡しする活動をしていました。また、北方領土に住んでいる方々が中学校にやってきて、僕たち生徒と交流する機会があり、そのときに受け入れ準備や手続きの仕事をしたことが印象に残っています。今思えば、この経験が法学部に入るきっかけだったのかもしれません。
-なるほど。赤田さんのルーツにはそのような経験があるのですね。中学高校時代の経験が大学で生かされていると感じることはありますか。
ボランティア活動では、住民のみなさんとありとあらゆるお話をします。スポーツの話をすることもあれば、音楽の話も。そうした時に、これまで様々な活動に挑戦してきてよかったと感じます。
写真:宮城県丸森町で台風被害の復旧ボランティア
充実した大学生活を送るために
-ここからは、学部1年生の頃の状況や、1年生に向けたアドバイスについてお聞きしたいと思います。まず、赤田さんが大学生活をスタートするうえで意識していたことや目標はありましたか。
司法試験に合格することを目標としていたので、まずは法律の勉強を頑張ろうと決めていました。ただ、将来働く時のことを考えると、法律の勉強だけをしてきた人に仕事が集まるとは思えませんでした。様々なことに興味関心を持ってチャレンジしている人や、広い世界を知っている人の方が信用されると考えました。ですから、勉強を頑張ることは大前提として、旅行へ行ったりボランティアをしたり、とにかく広く社会を知ろうということも目標にしていました。
-1年生の中には、やりたいことが見つからないという方も多いと思います。そういった方たちがやりたいことを見つけるために、何かアドバイスはありますか。
大学図書館本館の1階にたくさん新書が置いてあるスペースがあります。そこで興味の引かれる本を2,3冊借りて読んでみると、自分の興味関心が見つかるのではないでしょうか。
-1年生のうちにやってよかったことや、やっておけばよかったと思うことはありますか。
やってよかったことは、たくさん本を読んで興味関心を広げていたことです。ボランティア活動で住民の方々と話す時に話題に困らずに済みました。
やっておけばよかったことは、法学部に限った話になってしまいますが、自主ゼミ(※法学部生を中心とするサークル。自主的に集まりゼミのような活動を行う。)に入っておけばよかったと思います。なぜなら、法学部にはゼミや卒論が無く、学部内での人間関係をつくる機会が少ないからです。法科大学院の入試勉強をしている時に、答案作成や議論をする仲間がいなくて苦労しました。1年生のうちに何か1つでも自主ゼミに所属しておけば、学部内のつながりを作るのに苦労しなかったと思います。
あとは、大学の授業が始まる前に簡単な入門書をざっと読んでおくとよいと思います。少し知っている状態で授業を受けるのと、全く知らない状態で受けるのとでは、かなり差があると感じました。法律学においては、岩波新書から出版されている「○○法入門」という本が読みやすいのでおすすめです。
-最後に、1年生へのメッセージをお願いします。
大学の4年間は今思えばあっという間でしたが、1年生のみなさんにとっては、とても長く感じられるのではないでしょうか。ですから、自分のやりたいことを好きなようにやってみたらいいと思います。もし失敗しても、どうすればよいかはその時に考えればよいですし、むしろ大学生のうちにたくさん失敗を経験できるように果敢にチャレンジするのがよいと思います。
写真:福島県浜通り地域で稲刈り