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先輩の声

自分の信じる道を進もう

冨田知志(とみた さとし) 先生

東北大学 高度教養教育・学生支援機構/大学院理学研究科 物理学専攻 准教授

神戸大学大学院自然科学研究科修了/博士(理学)

冨田先生のプロフィール 

 

1973年生まれ  兵庫県出身

1993年 神戸大学工学部に入学

1999年 同大学大学院 自然科学研究科で工学修士を取得

2002年 同大学大学院 自然科学研究科で博士(理学)を取得

理化学研究所 ナノ物質工学研究室の協力研究員となる、
その後、理化学研究所 基礎科学特別研究員、JSTさきがけ研究員

2006年 奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学研究科に着任

2019年 東北大学大学院  理学研究科に着任、高度教養教育・学生支援機構に異動

 

記事作成:2021年12月

編集者:髙橋駿斗(工B1) 常井翔矢(工B1) 小泉百花(工B1) 八重樫樹(工B1)

 

私たちは「研究者のキャリアとプライベート」について興味を持ち、現在、高教機構(理学研究科)でメタマテリアルの研究をしている冨田知志先生にお話を伺いました。インタビューでは、大学院に進学し、研究者というキャリアを選択した冨田先生の研究に対する熱い思いを語って頂きました。

また仕事だけでなく、結婚や家での過ごし方などプライベートについてもお話頂きました。大学院への進学を悩んでいる方、研究者のキャリアに興味のある方は必見です!

 

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Topics

現在の研究テーマについて教えてください.

大学院に進学することを決めたきっかけは何ですか?

大学時代の活動の中で、今に繋がっていると感じるものは何ですか?

人生のターニングポイントはいつですか?

プライベートについて教えてください.

ワークライフバランスについてどうお考えですか?

これからやってみたいことを教えてください.

大学生へのアドバイスをお願いします.

 

・現在の研究テーマ、メタマテリアルについて教えてください

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メタマテリアルとは、一言で言えば「自然界に存在しない特性」を持つ物質のことです。具体的な例としては、負の屈折率を持つ物質などが挙げられます。

この分野は複数の学問分野が融合した、いわゆる「学際融合的」と呼ばれるような特徴を持っています。物理の知識が基本となりますが、その他にも電気回路の知識や、モノを作る際には化学の知識も必要になります。つまりメタマテリアルの研究は、様々な分野と関わりを持っていて、それらの考え方を取り込んで進められてきたものなんです。

たとえば私の研究は、理論家の方々と一緒に行っています。私は実験が専門ですが、理論家の方々とディスカッションすることによって、新しい研究テーマが生まれてくるんです。そのテーマについて私が実験をやってみて、その結果をまた一緒に議論していきます。そのような過程を積み重ねていくことが、論文を作成したり、本を執筆したりすることにつながっていきますね。

 

大学院に進学することを決めたきっかけは何ですか?

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一番大きかったことは、同じ研究室にいた先生・先輩の影響ですね。

その時私は神戸大学工学部の電気電子工学科というところにいたのですが、4年生で研究室に配属されるまで、大学院に進学するかどうかは考えたこともなかったんです。それで何が決め手になったかというと、ものすごく楽しそうに研究をされている先生・先輩方の姿ですね。

その頃の私たちは「物性」という、ものの性質を調べる研究をしていたんですが、そういった研究は「今日は結果が出ないからやめようかな」って思うときに、不思議と良い結果が出てくるんです。それで結局帰るタイミングを逃して研究室に泊まる仲間が多くいましたね。まるで、年間を通して仲間と合宿をしているような感じでした。

それが自分にとってはとても充実していたので、この人たちと一緒に活動することで自分もさらに楽しいことができると思えたんです。そこから自然と大学院に進学していったという流れでしたね。

 

・大学時代の活動の中で、今に繋がっていると感じるものは何ですか?

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様々な人に出会うことですね。

特に大学時代は、これを実践する上でとても適した時期だと思います。例えば研究では、自分一人に出来ることは限られていて、人と協力してひとつの課題に取り組みます。そうして人と出会う中で、自分にとって「一緒に活動がしやすい人」「分からないことが出てきた時に聞ける人」などがわかってきます。

また、アルバイトをすることも大きな経験でした。たとえ将来の自分の職業とは関係していなくても良いと思います。私にとってはその経験が「世の中は自分の知らない人たちによって回っていて、そのおかげで自分の生活が成り立っている」という、日頃は意識しないことに目を向けるきっかけになりました。

今になって改めて考えると、そういった経験を積んだことが知らず知らずのうちに将来に繋がっていったのではないかと感じます。

 

人生のターニングポイントはいつですか?

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人生のターニングポイントは2つあって、一つ目は今の研究テーマのメタマテリアルに出会ったことです。

博士号を取得した後に、埼玉の和光市にある理化学研究所で博士研究員(ポスドク)をしたんですよ。その時に新たに行う研究のテーマを決めなくてはならなかったんですね。

ただ学生時代にやっていたことをそのまま続けるのは面白くないだろうと思っていました。なので何か新しいことをやりたいと思っていて、いろいろ調べていた時に今の研究テーマのメタマテリアルに出会いました。

メタマテリアルというのは若い研究分野なんです。研究が登場したのが2000年くらいで、私が出会ったのが2002年なので当時は本当に新しかったですね。その分、海のものとも山のものともつかないような、そういう意味ですごくリスキーな分野だったけど、なぜかそこに可能性を感じました。

また大学の時に、「どんな小さなことでもいいから世界で初めてのことをやりなさい。」ということを叩き込まれました。まだ誰もやっていないことをやるのが研究だという考えが自分の中にあったので、メタマテリアルを選びました。それが一つ目のターニングポイントですね。

 

二つ目はポスドクが終わった時ですね。

ポスドクというのは3年とか4年の間だけはその研究ができる、でもその先は保証しないというような、いわゆる任期制と呼ばれるポジションです。私もポスドクとして自分のプロジェクトを始めて、それを4年くらい続けていました。そして、次にどうするかというのが、世の中の博士研究員にとってすごくシリアスな問題なんです。

じゃあ自分はどうしたかというと、理化学研究所での任期が終わった時に、奈良先端科学技術大学院大学の方が「うちに来ませんか」と言ってくださったんですね。そこで就職したことがターニングポイントです。自分が次の段階に進んだような実感がありましたね。

 

プライベートについて教えてください.

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プライベートですか。そうですね、やはり結婚生活などの家庭についてでしょうか。私はポスドクが終わったあたりの忙しい時期に結婚したので、当初は仕事と家庭の両立は凄く難しかったですね。任期制だったこともあって家庭を支えていくことに不安もありました。

でも仕事漬けになってしまうのはあまりよくないことなので、忙しい中でも家庭の時間は大切にしています。私としては、時期にかかわらず家族で一緒にごはんを食べるようには心がけてますね。

仕事とプライベートを分けることは大事で、それによってより生活は豊かになると思いますよ。私は公私の区別があまりできない人間だから、例えば休みの間はメールを見ないようにするだとかの工夫はしてます。まぁ、たまに見てしまいますけど…

 

現在のワークライフバランスについて、どうお考えですか?

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ワークライフバランスですか。大切だけど難しい問題ですよね。正直言って、大学時代も今も瞬間でのバランスは全然とれてないですね。仕事や研究に集中してのめり込んでしまうこともあるし、逆にそれ以外のことばかりしているときもありました。

私は、最終的に死ぬときにバランスが取れていればいいと思ってます。バランスを取ろうとすることは確かに大事だけど、いろんな事情が相まって瞬間でバランスが取れないことはたくさんありますよね。でもそれはしょうがないし、むしろそんなこと気にしないで、トータルで見てバランス取れていたらちょうどいいんじゃないですかね。瞬間のバランスを強く意識しちゃうと逆に何も出来なくなると思いますよ。

睡眠時間においても、特に若い間なんて全然寝なくても大丈夫じゃないですか。大学生は1週間で睡眠時間のバランスが取れていればいいと思います。ある程度年を取った現在は寝ないとパフォーマンスが落ちるので、徹夜とかは出来ないんですけどね。

 

これからやってみたいことを教えてください.

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いろんな人と共同研究をしてみたいですね。

今は素粒子物理の人と共同研究をしています。素粒子物理学はものを構成している根源的な粒子を研究する学問です。結局我々の住んでいる宇宙ってどうやって成り立っているんだろうか、という問いにつながってくる分野ですね。

その中でも今一緒に活動しているのは、ブラックホールを研究している人たちです。メタマテリアルを使うことで、宇宙ではなく実験室の中でブラックホールをどうやったら作れるかということを研究しています。それは今後も発展させていきたいですね。

また、今後一緒にやってみたい分野は生物学です。生物学って私たちのカルチャーとはかなり違っていて、とても複雑なんですね。生物は多様性が基本だけれども、物理は基本的にものすごくきれいな考えを求めます。あるひとつの第一原理で何でも書ければそれで安心してしまうところがある。それに対して生物は多様なものを結んで、そこのせめぎ合いが重要だということもあって、面白いなと思いますね。

 

大学生にアドバイスをお願いします。

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私はもう一言ですね。自分の信じる道を進んでください。

自分が面白いと思うこと、自分が楽しいと思えることはやってて苦痛ではないですね。それを見つけるのが大学、もっと言えば学校という期間だと思います。逆に言えば、大学にいるということは多分そういうものを皆さんがまだ見つけていないってことだよね。ぜひそういう人はやっててワクワクできること、熱中できること、情熱を傾けられることを見つけて欲しいですね。それを見つけられたら、その方向に自分を信じて進んでいって欲しいと思います。熱中できることを見つけるための方法としては社会を見ること、そして様々な人と話をすることが大事です。

また、「本を読む」というのもよく言われることの一つですね。私の考えとしては、もちろん大学生の内に本を読むことは大事だと思っています。でも、本の中に全ては書いていないですよね。むしろ本を捨てて街に出ることも場合によっては必要だと思います。ぜひアルバイトをしてみたり、サークル活動をしたりして人との出会いを大切にしてください。

 

編集後記

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八重樫樹:「やっててワクワクできること、熱中できること、情熱を傾けられることを見つけて欲しいですね。」という言葉が印象的でした。また、メタマテリアルの研究について熱く語ってくださる姿から、冨田先生がご自身の信じる道を進んでいらっしゃることを強く感じました。このインタビューを通して、研究者についてまた冨田先生について知ることができ、インタビューを実施して良かったと感じています。

 

髙橋駿斗:記事の作成を通して、「編集の程度」について考えさせられました。もちろん読みやすさを重視する上で編集は不可欠ですが、行き過ぎるとインタビューに答えて下さった方が意図した表現から外れてしまう恐れもあります。今回の記事の編集が適切な程度となっていれば幸いです。

 

小泉百花:インタビューを通して、先生の仕事観や大切にしていらっしゃる考えに触れることができました。また先生のお話からキャリアを選択した理由が意外とシンプルだなと感じました。今まで将来のキャリアについて漠然としたイメージしか持っていなかったが、先生の考えに親近感を感じたし、自分の思うままに生きていいのだなと感じて気持ちが楽になりました。自分たちの先を歩んでいる方のお話は貴重だなと思います。

 

常井翔矢:冨田先生のインタビューで、研究の先端を進む方の話を聞けてよかったと思います。特に「最終的に人間死ぬときにバランスしてればいい」という冨田先生の考え方は、自分の中で凄くインパクトのある、新しい視点となりました。この記事を読んだ人も同じような驚きを味わってもらえたら嬉しいです。