Voice

先輩の声

熱中するものは一つじゃなくていい

粥川 颯人 Hayato Kayukawa
(東北大学農学部)

宮城県出身。現在、東北大学農学部植物生命科学コースに在籍している。植物全般に興味があり、大学院への進学を志している。東北大学祭事務局や東日本大震災の経験についての語りを集める活動“Project San-Eleven”など、学業以外の活動にも積極的に参加している。

-宮城県出身とのことですが、粥川さんが好きなスポットはありますか。

定禅寺通りがとても好きです。高校の頃はメディアテークで勉強し、定禅寺通りを散歩していました。

-定禅寺通りといえば光のページェントの会場ですね。確かにいいところです。中学高校の頃に熱中していたもの、一生懸命取り組んでいたものについてお聞きしたいです。

中学高校の頃は部活動優先の生活でした。中高とソフトテニスをやっていました。それに加えて、中学の頃は生徒会に、高校の頃は応援団を補佐する組織に入っていたのでとても忙しかったです。

-いろいろな活動に従事していたのですね。最近熱中しているものはありますか。

深夜ラジオにハマっています。笑いの取り方やコミュニケーションの勉強にもなるし、聴いていて面白いです。あと、最近は観葉植物を集めていて、自分の部屋に置きまくっています。特に、珍しそうな植物を優先的に購入しています。

-観葉植物を集めるのは、農学部だからということも関係しているのですか。

確かに、農学部で植物の勉強をするから観葉植物を買い始めたというのはありますね。ただ、買い集めているうちにそれぞれの植物の面白さだったりかっこよさに気づき始めてしまい、観葉植物の沼にハマりつつあります。

-なんてことはないきっかけから徐々に植物の面白さに引き込まれていったのですね。

◇宮城県出身者として改めて震災に向き合う
-今までの大学生活の中で熱心に取り組んできたことはありますか。

Project San-Elevenですね。

-それはどのような活動なのですか。

東日本大震災に関係する活動です。“Project San-Eleven”というウェブサイトがあり、そこには東日本大震災に関するさまざまな体験談が載っています。東北で被災した人、東京で被災した人、当時海外にいた人など、さまざまな人に寄稿していただいています。さまざまな視点からの震災についての語りを集め、公開することで新たに学べること、知れることがある、そういう思いで運営されているウェブサイトです。私は震災の体験談を募集したり、実際に女川町に行き、女川町をPRしたり、復興状況を伝えるための記事を執筆したりしました。

-この活動を始めたきっかけはなんだったのですか。

サークルの先輩がインスタグラムで協力してくれる人を募集していたのを見たのがきっかけです。私は宮城県出身なのですが、震災に関する活動を何もできていないという負い目を感じていて、やるなら今しかないと思って参加しました。

-活動の中で特に印象に残っていることはありますか。

女川町のことがとても印象に残っています。女川町には高校生の頃から何回か訪れているのですが、行くたびに何かが変わって新しくなっているのが女川のすごいところだと思います。

-活動の中で苦労したこと、大変だったことはありますか。

ウェブサイトを作った経験がなかったので、一から自分たちのサイトを作り上げることがとても大変でした。記事を執筆する際も、読む人が魅力を感じられるような記事にするための試行錯誤を繰り返しました。当時はいろんな雑誌を読み漁り、自分の好きな文体を探しながら記事を執筆していました。すごく大変でしたが、雑誌を読むのが好きだったので苦ではなかったですし、自分が納得できる文体を実現できたということもあって、とても楽しかったです。

-ウェブサイトを一から立ち上げたというのは、本当に一からウェブサイトを作ったということですか?

プログラミングができないので、ウェブサイトを作るためのサービスを利用して自分たちのサイトを作っていきました。ただ、サービスを利用していても修正が必要なポイントはどうしても出てくるので、そこをどう修正するのかがかなり難しかったです。

-それはどのように乗り越えたのですか。

気合いですね。いろいろと調べながら進めてはいたのですが、エラーが発生することもかなり多かったです。私がその活動を始めたのが2年生の頃で、ちょうどコロナの影響で授業が全部オンラインになった時期と重なっていたので、午前中はSan-Elevenの活動をし、午後は授業を受けるという感じの生活を送っていました。

-Project San-Elevenの活動に参加して良かったことはありますか。

自分が頑張ってやってきたことがしっかりと認知されていると実感できたことですね。友達とかがProject San-Elevenという名前を出してくれることが本当に嬉しかったですし、それ以上に、「自分の震災の体験をどこかで共有したかったけど、共有する場がなかったんだよね」という話を聞いたときに、自分がやったことはしっかりと人のニーズに応えられているんだということを実感できてすごくやりがいを感じました。

-1年生の中には、課外活動を頑張ろうと思っても、挑戦する場所を見つけられなかったり、自分がやりたい活動を見つけるのに苦労してしまう人もいると思います。そういう1年生に対してアドバイスをお願いします。

私も1年生の頃は迷子でした。何かやりたいけど、何をやっていいかわからないというのはよくわかります。そういう人には、規模が大きいサークルに入ることをオススメします。規模が大きいサークルに所属しておけば、何か面白そうなことをやっている東北大生に出会えるはずです。迷子になっている人は、規模が大きいコミュニティーに積極的に入っていってみてください。もう一つが、たくさん情報を仕入れることです。いろいろと知っておくとやりたいことが広がっていくと思うので、本や雑誌を読んで積極的に情報を集めるといいと思います。

-今情報を集めるという話が出てきました。粥川さんがおすすめする本や雑誌の使い方はありますか。

例えば、『BRUTUS』という雑誌では、1年に1回くらいのペースでおすすめの本を紹介する特集が組まれます。そういったものを参考にして読んでみたい本をどんどん見つけていくといいと思います。他にも、自分で月ごとにテーマを設けて、それに関する本や雑誌を読むというのもおすすめです。例えば、大麻の合法化に関する議論に興味があるとしたら、1ヶ月間大麻について幅広く勉強してみるとかですね(笑)。

◇幅広く学ぶ大学生活
-農学部を選んだ理由を教えてください。

とにかく農学部に進学したい、農学部に入って微生物や発酵食品に関連することがしたい、という感じでした。

-東北大学を選んだのはなぜですか。

最初は北海道大学への進学を考えていましたが、両親と話し合い、東北大学を選びました。海外留学がしたかったので、東北大学に進学した方が金銭的な負担が少なく、留学のための貯金がしやすいと考えたからです。東北大学でも自分がやりたいことができるとわかったことも東北大学を選んだ理由ですね。

-微生物や発酵食品に興味をもったきっかけを教えてください。

高校1年生の時に参加した東北大学のオープンキャンパスで農学部キャンパスに行った時に、味噌や日本酒を作る際に必要になる麹菌についての話を聞いて面白さを感じ、自分もこういうことがしてみたいと思ったことが最初のきっかけです。また、自分で研究をしてみる「学術研究」という授業が高校にあり、そこで乳酸菌や大腸菌についての研究をしてみました。実際に研究してみて、やっぱり面白いと感じたので、大学でもやりたいと思うようになりました。

-純粋な好奇心が農学部進学の理由なのですね。どういうきっかけで留学に興味をもったのですか。

海外に行って外から日本を見る経験をしたいと思ったからです。

-San-Elevenの活動についてうかがっている時も、これまで見過ごされてきた視点から東日本大震災を見つめるという目的について語られていました。複数の視点から物事を見つめるという点で留学とSan-Elevenには共通の意識があるように感じます。

それはあると思います。ずっと同じ視点から物事を眺めるのは危険だと思います。視点が固定されることで問題を見過ごしてしまうことを避けるためにも、とにかくさまざまな視点から物事を眺めるというのは常に意識していると思います。

-実際に留学はしたのですか。

SAP(Study Abroad Program)やFL(Faculty Led)に参加する予定だったのですが、渡航したかった時期とコロナが流行し始めた時期が重なってしまったので諦めざるをえませんでした。

-タイミングが悪かったのですね。非常に残念です。大学1年生の頃に意識していたことはありますか。

人前で面白いことをいうためにはどうすればいいのか、ということですね。大学1年生の頃は東北大学祭事務局に所属していました。ステージ担当の私が日々の練習で出演者役になり、何か面白いことをいう必要があったのですが、実際にやってみて「自分全然面白くないな」ということに気がつきました。そこで、お笑い動画などを見漁って、何をやったら面白いのかということを真剣に考えていました。これは今でも人とコミュニケーションを取る際に役立っています。

-入学したばかりの頃に大変だったこと、不安に思ったことはありますか。

大学の友達を作ることに苦労しました。同じ高校から東北大学に進学した人がかなり多かったので、気づいた時には周りにいる友人のほとんどが高校からの知り合いでした。

-いつ頃それに気づいたのですか。

大学一年の夏休みの頃ですね。

-それに気づいた後、何か具体的な行動をとりましたか。

授業で一緒になった人にあいさつし続けました。些細なことですが、続けた結果友人になることができ、去年は学部の友達とスキーをしに行きました。

-粥川さんが挨拶をし続けたのは、具体的にどういう人なのですか。

全然知らない人にあいさつするのはハードルが高いので、グループワークで一緒になった人に会うたびに「おつかれ」といい、「今何やってるの」などと話をつなげてその人の作業を覗きに行く、みたいなことをしていました。

-知っているけど仲がいいわけではないから話しかけづらいという1年生もいると思うのですが、そういう人に話しかけるための一歩を踏み出すコツはありますか。

プライドを捨てる、恥ずかしさを捨てる、それに尽きると思います。

-将来やりたいことについて教えてください。

すごく漠然としていますが、植物に関する仕事をしたいと考えています。せっかく植物の勉強をしているので、その知識や経験を活かしたいです。

-植物に関する仕事とはどのような仕事なのかを教えてください

種苗メーカーですね。種や苗を作ったりする仕事です。今作られている農作物にも流行り廃りがあります。基本的にはより品質が良いものが広く使われるので、常に品種改良しないといけません。そういう仕事に就きたいと考えています。

-将来に向けて取り組んでいることはありますか。

メーカーや官庁のサイトをたまに見ています。また、自分が研究してきたことが就職先でも活かせるわけではないという話をよく聞いているので、幅広く対応できるようにするために近い領域の専門書を読んでいます。大学院進学に向けた勉強にも力を入れて取り組んでいます。自分の専門ももちろん大事ですが、その周辺領域についての知識を持つ必要性も感じているので、幅広く専門書を読んでいます。

◇コミュニケーションスキルを上げるためのバイト
-現在熱心に取り組んでいるものはありますか。

コミュニケーションの取り方をもっと学びたいので、バイトでの接客に力を入れています。

-人とのコミュニケーションの取り方を勉強したいと思ったきっかけを教えてください。

大学祭事務局に入り、人前で面白いことをするにはどうしたらいいのかを考えたという話をしましたが、そこから他人と円滑なコミュニケーションを取るためにはどうすればいいのかに興味関心が移り、接客業を始めました。

-具体的にはどのようなバイトをしているのですか、

メガネ屋でバイトをしています。おすすめのメガネについてお客様と相談する中で、いろいろとコミュニケーションをとっています。

-接客のバイトを通じて何か気づいたことはありますか。

振り返ってみると、今までの自分はすごくひねくれていたのだと感じています。例えば、友達が髪を切ったときに「髪切ったね」って話しかける人っていますよね。今までの私は、もしかしたら相手は嫌なのかもしれないと勝手に思って触れなかったりしてきたのですが、それは違うと思うようになりました。今では、友達への挨拶や感謝の気持ちをすぐ口にするようにしています。

-バイトでの経験が普段のコミュニケーションに活かされているエピソードはありますか。

今農学部の3年生で、班ごとの実験活動がメインなのですが、そこで毎回「ありがとう」ということで円滑なコミュニケーションがとれていると感じています。些細なことでも口にすることで、すごくいい雰囲気が作れていると思いますね。

-バイトでの接客で難しいと感じていることはありますか。

一つは勇気がいることですね。同世代のお客様なら物怖じせずに接客できますが、上の世代のおじさんや見た目が怖い人に対しては先入観から尻込みしてしまうこともあります。もう一つはメガネに関する専門的な知識が必要なことですね。これについては自分で勉強しなければいけません。

-コミュニケーションスキルを上げるというのは一朝一夕ではできないこと、言い換えるなら、時間と経験の積み重ねが重要になることだと思います。コミュニケーションが苦手な1年生へ向けて、比較的簡単に実践できそうなアドバイスはありますか。

とにかく挨拶をすること、そして人に興味を持つことですね。挨拶をすることで「この人には話しかけていいんだ」というイメージが生まれると思うので、積極的に挨拶しましょう。また、人に興味がないと話が広がらないので、その人がどういう人かとその人は直近で何をしていたかについてはしっかりと覚えておきましょう。

-最後に、このインタビューを見てくれている学部1年生にメッセージをお願いします。

自分が本当にやりたいことにたどり着くまでにはかなり時間がかかると思います。ただ、自分がやりたいことを無理に一個に絞る必要はありません。いろいろな活動に参加する中で、その時に面白そうだと感じたことを続けてみて、合わないと思ったら距離をとり、やる気が出ると思ったら熱中してみるという一貫性のなさも時には重要です。そうやっていろいろと経験していけば、自分がやりたいことがいつの間にか形成されているはずです。幅広く、ゆる〜くチャレンジしていきましょう。