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先輩の声

留学が自分を映し出す: 「私の常識=偏見」が成り立つと気づいた日

写真:共同研究先(中国)での研究発表

藤田脩椰(ふじた・しゅうや)さん
東北大学工学部機械知能・航空工学科卒。東北大学大学院工学研究科1年。学習支援センターSLA(企画)。学部生のころはオーストリア、大学院生のときにはエストニアに留学するなど、多くの留学経験がある。現在就職活動にも力を入れており、日本でのインターンシップ経験も豊富だ。

まえがき

留学は、人生を豊かにする学びを得られる機会の一つであり、それを体験した学部4年生のときの藤田さんの物語は、私たち編集者にとって心を揺さぶられるものでした。遠くの地での貴重な時間が、彼の自身の考え方や価値観を見つめ直し、新たな視点を持つきっかけとなりました。このインタビューでは、留学が藤田さんにもたらした変化と学びに迫ります。藤田さんにとって、そして私たち大学生にとって、留学の魅力とは、どのようなものでしょうか──。藤田さんの留学経験から得た洞察は、私たちの固定観念に疑問を投げかけ、普段の生活では得られない気づきを与えてくれるかもしれません。

インタビュー実施日:2023年11月20日
記事作成年月:2024年1月
編集者:野原壮悟(工学部電気情報物理工学科3年)、小林修大(経済学部2年)、成田慧太(文    学部1年)

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Topics:

1 私はこんな学部生でした
2 受け身な自分を覆したい!どんなことにもチャレンジ精神
3 自分の認識は偏っていた~レッテル貼りで作られた世界~
4 留学は「百聞は一見にしかず」な体験だ!
5 事前準備は怠るべからず~準備を制する者は留学を制す~
6 留学経験の効果を最大限に活かすためには
7 留学するかどうか迷っているキミへ〜迷ったら、行け!~

  私はこんな学部生でした

初めて留学を経験した学部4年生の春までは、他の同学年の友人と同じような生活をしていました。具体的には、日中にキャンパスや自宅で授業を受け、空いた時間で部活動として弓道をしたりアルバイトをしたりする、という生活を送っていました。しかしながら、ちょうど学部2・3年のころはコロナ禍真っ最中で、授業はオンラインで友人と会うことも難しかったり、部活の頻度も制限されていたりと、自分のやりたいことを羽を伸ばしてやることはできず、歯がゆい思いをしていました。

学部4年生になると、SLAでの活動も行うようになりました。SLAは東北大生の学習をサポートするさまざまな活動を企画・運営している組織です。大学院生になった今でも活動を続けています。

勉強面でいうと、3・4年で自由な時間が欲しかったので、少しきつくても学部1・2年から授業数は気持ち多めに取っていました。学部生のときにとった授業の中で一番面白かったのは流体力学の授業です。理論と現実の違いを実感した授業で、理想化された状態で計算された挙動と現実のそれが大きく異なる場合もあると学べたので面白かったです。

受け身な自分を覆したい!どんなことにもチャレンジ精神

4年生になって初めて留学に行ったと言いましたが、3年生の途中まではコロナ禍も相まってあまり外出する機会もなく、留学を意識することはありませんでした。しかし、3年生後期の研究室配属で自分のまわりの環境が一気に変わりました。それが留学に行こうと決めたきっかけです。

私の学科では3年時に研究室の配属がありました。そして、私が配属された研究室は、日本人学生対留学生の比率が時期によっては1対1くらいになるほど国際色豊かな研究室でした。留学生たちが自国から日本という新たな環境に身を置き頑張っている姿を見ていたら、自分も海外に行ってみてもいいんじゃないかと思うようになりました。そう思い立ったとき、たまたま外部団体の留学プログラムを見つけたのです。「自分は留学するぞ!」と思ったときに、自分にぴったりな留学プログラムがあったので、とても運がよかったと思います。

私は社会福祉について学ぼうというテーマのもと、オーストリアに留学しました。なぜ社会福祉の留学プログラムに参加したかと言うと、自分の専門である工学系の研究に固執するのも面白くないと考えたからです。研究とは全く関係ない分野にも手を出して、新しい領域の知識を得たいと思い立ちました。また、ずっと受け身な行動を取っているのもどうかなと思っていたところでした。そのため、自分から海外に出て、いろいろな体験をしてみることも必要だと考えたのです。

私は、自分にとってわくわくするようなことには積極的にチャレンジするようにしています。たとえそれをやっていく中で大変なことがあっても、前向きに挑むようにしています。よく「ものごとを始めるには勇気がいる」と言う人がいます。しかし、私はまったくそのようなことはないと思っています。本当に自分にとってわくわくするものだったら、勇気とか、ちょっとした恐怖とかを感じる前にすでに始めているでしょう。だから、ものごとをなかなか始められないと思っている人は、自分が心からやってみたいことを見つけるのが大切だと思います。そして、やりたいことが見つかったら、それを成し遂げられるような環境を整えましょう。それは私にとっては留学プログラムを探すことでしたが、例えば大学生活でたくさん友人を作りたいと思ったのなら、サークルなどに積極的に参加することが「環境づくり」になると思います。

自分の認識は偏っていた~レッテル貼りで作られた世界~

オーストリアではいろいろな施設を訪問しましたが、その中でも難民支援センターの訪問は自分のものごとの考え方が変わるきっかけを与えてくれた場所でした。

皆さんは「難民」と聞いて、どのような人たちをイメージしますか?住む家がなく、他の国や地域に命からがら逃げてきて、衣服や食べ物にも困っている方々を想定したのではないでしょうか。普段見ているニュースやネット記事などの内容から難民のことを想像するとそういったイメージが浮かびますよね。僕も留学前はそのようなイメージしかありませんでした。

しかし、難民支援センター訪問を通して、そのイメージは間違っていたことに気づきました。私たちと同じように、きちんとした住居に住み、栄養のある食べ物を食べ、きちんとした職業に就いていたり、普通に学校に通っている方々もいるのです。一例として、私たちが現地で目の当たりにした難民の中に、オーストリアで暮らしていくためにドイツ語を学んでいる方々がいました。オーストリアの公用語はドイツ語ですが、難民の方々が皆ドイツ語を話せるわけではありません。現地で職を得て定住するためには、ドイツ語が必要とされています。そういった背景のもと、難民の方々にドイツ語を教える支援団体があります。また、支援対象者の中には、ドイツ語で行われる授業を聞いて、会話を滞りなく行える方もいました。このように、実情は自分の想定通りとは限らないものなのです。

この経験から、このような「難民」というたった一つの言葉をとっても、僕たちは想像以上に大雑把な捉え方をして生活しているんだなと痛感しました。私たちは何を考えるにしても、無意識のうちに言葉や概念に「レッテル付け」をしていて、その「レッテル」の内容をもとに考えてしまいがちだということです。これは大きな問題だと思いませんか?バイアスがあると、客観性が損なわれ、客観的な情報を適切に理解することに支障が生じます。その結果、正確な情報や事実に基づく客観性を保った判断を下すことが難しくなり、間違った結論に至るリスクが高まると思います。

私も留学前に難民のことを調べているときは、「難民=家ない、食糧ない、なにもない」というイメージを前提に調べていたため、その属性ではない難民について何も調べることができていませんでした。しかし、実際に留学してみると、現地の難民の方々が安定した暮らしをしていて、とても混乱したのを覚えています。

写真:オーストリア滞在中に電動スクーターを試乗

日本に帰国してから、自分がそういった「レッテル」に基づいて行動に表してしまっていた場面がいくつも思い出されて、少しショックを受けつつも、このことに気づき、何を考えるにしても、「自分は無意識のうちに前提にしている基準ってないかな?」とか、「根拠のない思い込みをしてないかな?」と考えるようになりました。さきほど留学の目的を決めることが重要であるという話をしましたが、このように、意外と留学の本来の目的以外のところでも学ぶことが多いです。私の初めての留学の目的は社会福祉を学習することでした。もちろん留学を通して社会福祉の知識はとても身についたのですが、それ以上に「自分ってレッテル貼ってるな」と身をもって体感したことで、留学後の自分の考え方が変わりました。

留学は「百聞は一見にしかず」な体験だ!

先ほど述べたように、自分たちは無意識の内にあらゆることに「レッテル付け」を行ってしまっています。ですが、その「レッテル付け」は普段私たちが暮らしている日本という環境にある中で自然に、無意識のうちに染みついてしまうものです。そのため、その「レッテル」は自分で気づくことはできません。それまでとは異なった経験をすることで初めて自分の考え方が相対化され、その「レッテル」に気づくことができるのです。

それぞれの国や地域に応じて「常識」の枠組みは異なります。そのような海外の環境に飛び込むことで初めて、自分自身の中の「常識」が絶対的に正しいとは限らないと気づくことができました。そういう意味で、留学はプログラムがすべてではなくて、海外という環境に身を置くことそのものに意味があると思います。

このことに関しては複数のエピソードがあります、エストニアに行った際に、サウナに入ったことがありました。もちろん、アジア人は僕一人でした。そんな中、現地の人が話しかけてきてくれました。そこでは葉っぱでたたき合いながら、現地の人に混ざってサウナを楽しんで、その中で現地の生の声を通してエストニアという国の文化を知ることができました。この経験は自分の中でとても印象に残ってます。これ以外にも、町を歩いているといろんな人が声をかけてきます。もちろん相手を見て関わるか判断しないといけないのですが、そこで無視をせずに、一瞬でも話を聞く姿勢を持っているだけで、異文化について得られることが大きく変わってきます。日本にいる場合、道を歩いていて外国人に話しかけて、楽しく会話するということは想像しにくいと思います。だから、そういった点でも異文化を肌で感じる時間になりました。

聞く姿勢に関連しますが、私は留学中に一緒に行った日本人の仲間たちと固まりすぎないことを意識しました。知らない言語を話す集団が自分たちに近づいてくることは、心理的に相手に恐怖感を与えかねません。ばらけることで、現地の人を不快にさせないようにするとともに、話しかけられやすい環境が整うという効果が得られると思います。その結果として、プログラムの中では想定されてないであろう様々な経験を得ることができました。

振り返ると、私の留学経験は「百聞は一見にしかず」を体感できた経験だったなと感じます。1回目の留学のテーマは社会福祉について学習することでしたが、留学先の様々な人々と交流し学習していく中で、自分の考え方を再構築することができました。

このように、事前に設定した目標やテーマに直接的には関係ない、いわゆる「ノイズ」のような出来事が、意外と後々の生活に役に立ってくるのではないかと思います。自分のあらゆることに対する常識が実情の一面を切り取ったものに過ぎず、想像以上に自身にはバイアスがかかっていることへの自覚を持つきっかけであったり、海外の生活の中にある文化は、日頃のニュースやネット記事などの情報からでは得られないことだと思います。現地の人の声や、現地の空気を通じて得ることは座学的な学びではなく、人生の学びになることでしょう。日本国内では得ることのなかった体験や出会いを経て、長期留学や海外インターンシッププログラムを選択肢に加え、自分の将来についてより広い視野で考えるようになりました。

 事前準備は怠るべからず~準備を制する者は留学を制す~

事前の準備の仕方によって、留学中に学べることの豊かさが変わってくると思います。プログラムの目的と関係する前提知識をインプットするのは1つのポイントです。例えば、文化交流が留学の目的であれば、留学先の生活習慣や行事、料理などの文化や歴史を調べておくのが効果的です。何も知らない、まっさらな状態で留学に行って終わってしまっても、あまり意味がないと思います。例えば、文化交流が留学の目的であれば、相手の文化を知ろうとするだけでなく、自国の文化を伝えるという姿勢も重要です。準備の段階では相手国のことを知ることばかり考えてしまいがちですが、文化を双方で伝え合うことが文化交流であることを忘れず、自国の文化について今一度理解を深めておくことで、充実した文化交流が実現できると思います。

ただ、知識の入れ方については注意が必要です。私は当初、インターネットに載っている情報をつまみ食いするように適当に勉強していました。しかし、結局十分な情報量を得ることができず、留学先で講義を聞いているうちに分からなくなってしまい、講義終了後に調べて補うといったことがありました。そのため、知識量は十分に用意していく必要があります。また、情報の量だけでなく、質も同じくらい重要です。先ほどインターネットを挙げましたが、インターネットの情報を鵜呑みにするのは良くありません。本や雑誌、ニュース、ラジオ、留学経験のある先輩など、様々な媒体や人脈から情報を得るのがよいと思います。

また、そのほかの事前準備として、簡単でも結構ですので現地語を覚えておくといいでしょう。それは挨拶程度のレベルで構いません。例えば、日本に来ている留学生が「こんにちは」や「ありがとう」といった日本語を使っているのを聞いたら、何となく親しみを感じると思います。それは海外に自分が行った時も同じです。海外独自の文化、言語を少し知っているだけで、親しみを持ってもらいやすくなり、またこちらの意欲をアピールするきっかけにもなるのでとても有効だと思います。

留学経験の効果を最大限に活かすためには

ここまで述べてきたように、留学に挑戦することは、自分の視野を大いに広げてくれて、新しい活動範囲が見えるきっかけとなります。できるだけ早い時期にこのような留学経験ができたら、大学生活が豊かになるだろうなと感じます。また、人それぞれ経験や立場によってモノや世界の見方は異なるといえます。例えば、1つの家を見たときに、普通の人はその外観に対して感想を持つのに対して、建築家であればその構造がどうなっているかということを考えるでしょう。また、不動産業に務める人であれば、その家の価値を推定しようとするかもしれません。このように、彼らは普段の仕事の経験を通して、家に対する見方を養っているのです。これと似たようなことが留学の経験にも当てはまると思われます。

私の場合は、難民支援センターを訪れた経験から自分の難民に対する認識がごく狭いものであったという気づきを得て、現在では新しい視点から難民問題を考えることができるようになりました。海外で学ぶことは、自分のものの見方に大きな転換をもたらしてくれるものなのです。さらに、そういった経験は、視点の転換だけでなく選択肢が広がるきっかけとなり、次なるチャンスを得て、また新たに挑戦することにつながります。このように、できるだけ早い時期に留学する経験は、大学生活という限られた期間に様々な機会を得やすくなるという意味で、有意義であると思います。

しかし、あらかじめ仮説を立てないような中途半端な状態で留学に参加して、ただ「楽しかった」だけで終わってしまっては実りある留学とは言えません。私は学部4年生の春休みという比較的遅い時期に初めて留学に行きましたが、自分にとっては最適な時期だったのかなと思っています。というのも、日本の中で過ごしているうちに抱くようになった違和感を、海外で検証することができたからです。日本で経験を積んだ上で疑問に感じた点を挙げ、その点を海外に行ってから解消することで、より深い学びを得られるのだと考えています。

留学するかどうか迷っているキミへ〜迷ったら、行け!~

留学と一口に言っても、語学、研究、あるいは文化交流など様々なテーマがあります。その中で「自分が留学を通して何をしたいのか」ということを一度考えてみることが必要です。さもないと、ただ「留学楽しかった!」で終わってしまいますから。自分の中で留学の目標が明確になったのなら、さっそく留学の準備をしましょう。

留学のメリットとして、「百聞は一見にしかず」という概念を体感できることを挙げましたが、これ以外にもたくさんのメリットがあるので、そのいくつかを紹介します。1つ目は、メンタルが強くなることです。グローバル化が進展し、1日先の予測でさえ困難になっています。何が起ころうと冷静なマインドを保ち、頭を働かせ、必要な情報を入手し、最適解を考えるチカラが必要です。あなたが留学すれば、英語が聞き取れないとか、友達を作れないとか、必ず失敗、挫折を繰り返すことになるでしょう。その辛いながらも濃密な経験から学び、何かをやり遂げる達成感を得ることで、帰国するころには強靱なメンタルと自分に対する自信を身につけることができるでしょう。2つ目は、海外でも人的ネットワークができることです。実際、私が留学先でできた友達とは今でもメールのやりとりをしています。世界中に広がる人と人とのつながりは、留学中だけのものではなく、卒業後の人生においても貴重な財産になるでしょう。

どうですか?留学したいけど躊躇しているみなさん、留学に興味のあるみなさん、留学してみたくなってきたんじゃないでしょうか?

写真:エストニア最古のサウナに挑戦

大学生活は自分から何に挑戦したか、そして何に時間を使ったかで、ひとつひとつの色がついていき、その度に自分を更新していくことができる期間だと思います。言い換えれば、大学生として過ごす時間は、自分が取り組んだこと次第でどんな姿へも変わっていくことができる時間なのです。私はまだ見ぬ自分の姿を更新できるかもしれないと思うと、とてもわくわくしますし、だからこそ面白そうだと感じることには挑戦するようにしてきました。その中でも留学は私にとって、間違いなく、自分を大きく更新できた経験の一つです。真剣に取り組めば、皆さんにも必ず変革をもたらしてくれると、自信をもってお伝えします。

また、留学などのような大きな挑戦の中でも、小さな挑戦を積み重ね継続して物事の成功のために努力し続ける姿勢を維持するためには、自分の行ってきたことを振り返る時間を作って、自分のなりたい姿を定期的に思い描くことが大事です。自分の理想像の方針を定めて、挑戦をするというサイクルを繰り返すことで、きっと皆さんのまだ見ぬ姿にたどり着くと思います。皆さんが今迷っているのであれば、ぜひ挑戦という選択をとって、新しい自分に出会いにいきましょう!

編集後記

この記事制作では私たち制作班が一丸となって、藤田脩椰さんのメッセージをできる限り脚色せず、原稿を最大限に尊重し、生かして読者に届けることを最優先しました。すべての言葉が、情熱を伝える最高の手段であることを忘れずに。また、この記事には、藤田さんと私たち編集者の「留学の経験を通して、他の学生の方々に今までの固定観念をなくし、広い視点を持っていただきたい」という思いが込められています。私たちは藤田さんのメッセージをありのままに伝えることができたと自負しています。最後に、この記事制作に関わったすべての方々にお礼を申し上げます。取材協力いただいた藤田さん、この素晴らしい機会をくださった佐藤智子先生、TAの方には心から感謝を申し上げます。藤田さんのさらなるご活躍を我々は心から応援しております。