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先輩の声

余計なこともやってみなはれ

中村教博(なかむら のりひろ)先生

東北大学 高度教養教育・学生支援機構 大学教育支援センター センター長

兼 東北大学大学院 理学研究科地学専攻教授

静岡大学理学部に入学後、地学分野の研究を進め、東北大学大学院に進学

東北大学大学院理学研究科修了/博士(理学)

 

研究、教育の第一線で活躍される中村教博先生

学問の分野にとらわれない多角的な学びを追求し、研究・教育の最前線で活躍されている。

そんな中村先生が今の東北大生に伝えたいことは何か?

東北大生へのメッセージや、それを裏付ける先生自身の豊富な経験をインタビューでお聞きすることができた。

 

記事作成:2021年12月

鈴木智也(理B1)、三澤智暉(法B1)、片山歩紀(理B1)、三浦新一(文B1)

 

【お品書き】

1_これまでのあゆみ

2_「余計なこと」から深まる学び

3_「専門家」をつなげる

4_やってみなはれ、東北大生

5_編集後記

 

 

これまでのあゆみ

 

中村です。今は高度教育教養学生支援機構というところに所属しています。

 

まずは私がどんな学生だったのかっていう話からしますかね。大学生活の中で一番印象に残ってることと言えば、初めて救急車に乗ったとかいうのもあったな。それまでずっと水泳をしていたんだけれども、突如大学入ってからラグビーをするようになった。それで大学二年くらいの時にスクラムを組んでた時に、相手がものすごく強い人でそのままへし折れちゃった。それで脇腹の肋骨のところがゴキッといって息できなくなって、そのまま救急車で運ばれていったんですけど。結局病院にいくと、肋軟骨だよこれは痛いだけって言われて帰らされて。なんか情けない話がありました。

 

そういう大学生活の中で勉強の方では地学を専攻したんだけども、突き進もうと決めた理由は特になかったかもしれないな。大学に入った当初はモチベーションがあったんだけど、部活にのめり込んでしまって。その後は、就職するか大学院に進むかということで、当時の指導教員から迫られて、就職はマスター行ってからでもできるからというような感じで大学院に進みました。もともと高度教育教養学生支援機構にくる予定はなくて、研究がやりたかったんです。研究は面白いからね。

 

今は高度教養教育学生支援機構に所属していますが、6年くらい前までは理学研究科で地学の研究を主にしていました。専門は地学、ずっとやってるのは断層の研究です。断層の研究の最中に一時期カナダに行っていたことがあって、その時にでっかいクレーターがあって、それからクレーターの研究をちょこっとするようになったり、最近は津波の研究も始めているような感じで色々やっています。すごくできるというわけではないけれど数学がすごく好きだったので、数理的な方面から地学の研究を進めています。

 

研究のほかには高度教養教育学生支援機構の2つのセンター長をしていて、新しいTA制度とか全学教育の新しい授業を考えたりしています。みなさんの身近なところでいうと自然科学総合実験ですね。当時僕が30〜33歳だったから、多分20年くらい前にみなさんが苦手な自然科学総合実験っていうものが立ち上がります。私はそのプロジェクトチームにたまたま組み込まれたんです。そこでちょぼちょぼ実験の担当とかしてて、15年くらいしてから、あんたこれ世話する役にならないかと言われまして。僕は研究したかったんですけど、でも研究しながらでもできるという甘い誘惑に乗せられまして、じゃ行きますかという感じで引き受けました。

 

僕、「やらない?」って言われたら「うーん、やります!」って言っちゃうところがあって。ってのも昔、親父が「やるかやらないかって聞かれたら、とりあえずやるって言っとけ」って言ってたことの影響で。そういう感じで高度教養教育学生支援機構に来たら、なんや全然研究できないやんけ!みたいな。今は何とかコソコソ研究もやってますが、地学の研究よりも教育関係の仕事が主になってきてて(笑)。

 

「余計なこと」から深まる学び

大学からの学びには自分の専門分野からちょっと横道に逸れた「余計なこと」ってすごく重要だと思うのね。今までいろいろな卒論、修論なんかを見てきたけど、いいテーマっていうのは必ず「余計なこと」が関わっていると思います。逆に王道的なテーマの研究だと上手くいかないことが多い。研究テーマを作る時って自分の専門分野の論文をいっぱい読んだりするんだけど、その中でふと別の分野の論文をちらっと読んだときにこれ自分の研究と一緒じゃんみたいなのが見つかってテーマが決まることがあるのね。こういうピンときたテーマって、王道のテーマよりどういう結果になるか分からん部分が多いから、学生さんも教員もだんだん研究に熱中していってどんどん突き進んでいく。これってすごい体験だと思うんです。学部4年生とかがそういう体験をすると自分で勝手にいろんなことを始めるんだから、1年生の内からちょっとでもそんな体験ができるとその先がだいぶん違うんじゃないかなって思っているの。

だから、学生さんにも低学年のうちから「余計なこと」に触れてほしいなと思って「余計なことからはじめよう」っていう授業を同僚の先生方の協力のもとで始めたの。シラバスに詳しいことは書いてあるけれど、授業を通して一見無駄に見える物事について多様な観点から捉えることができる柔軟性や余計なことや偶然により生じる予想外の結果を楽しむことができる遊び心みたいなものを身につけてもらえればいいなって思ってるの。

専門分野から横道に逸れる時に文系理系の壁すら越える事もあるんです。僕が文系の先生と話していると、発想や考え方で似ている部分があるなって発見があるの。今まで全然違う道を歩んできた人がなんか似たような発想をしたり考えを持っていたりする事ってすごい面白いことだと思うんですわ。余計なことをはじめようっていう授業は学部問わず開講されているので、他分野の人と関われるすごくいいチャンスだと思ってる。さっきも少し話したけれど、自分の専門分野と余計なことが繋がった時の知的好奇心の広がり方ってすごいと思うのね。だからね、1年生の内はいろいろやってみて自由な発想ができるようになってほしいなって思いますね。

学生さんの学びがもっと深まるように、「余計なことからはじめよう」みたいな新しいタイプの授業をもっと増やしたいと思っているの。だから、TAのシステムをちょっと変えようとしている所なんですわ。今はTAは大学院生が基本やっているんだけど、そこに学部3,4年の人もできるようにしようっていうのと,博士課程の学生さんにはほぼほぼ一本立ちで授業やっても構わないよって、なるような仕組みを作っている所ですね。今は高校で問題を生徒たちで話しながら解くみたいな授業が増えてきてますから、発想の柔軟な大学院生の力を借りて新しい授業をつくっていこうと画策しています。高度教養教育・学生支援機構の大学教育支援センターではそういう授業をしてくてる学生さんたちのサポートをしていくっていう感じですね。

 

 「専門家」をつなげる

やっぱりね、君たちにはただ専門家になるだけじゃなくて、ぜひ色んな分野の専門家を繋げるような人材になって欲しいんだよね。世の中に専門家はいていいんだけど、こんな感じで専門分野同士をつないで翻訳する人、つまり「この分野の人はこう考えてるんだけど、あなたの専門分野ではこういうことですよね。」ってことを言える人が世の中に、1割かな、1割でもいると世の中がうまくパッケージ化(整合化)される。だからそういう風に、自分の専門だけじゃなく、他の専門分野も見る意識を持ってて、それぞれの分野をつないでくれるような人がちょっとでも出てくると、日本の社会がどんどん変わっていくのかなと思うわけです。でもそういう人材になるには、まず何か一つの専門家にならないといけないんですよね。1人ひとり専門分野として確立した知識を持って、自分はこういうエキスパートだという認識を少なくとも絶対持ってほしい。それがないと話にならないんすよ。なので皆さんにはぜひ、自分の専門性をきちんと確立した上で本当の翻訳家になって欲しいと思います。

 

やってみなはれ、東北大生!

昔に比べると今の東北大には、本当に活発に、自分の頭で考えながら色んなことをやってる学生が昔に比べて多くて、なんかすげぇな、ついていけへんな、という感じですわ(笑)そういう意欲的な生徒にはもう何もいう事がないというか、背中を押すだけという感じですね。世の中には「今の若者は頼りない」みたいに言っている人もいますけど、僕から言わせると全然そんなことないし、むしろこの人たちに任せれば世の中数倍よくなってくと思います。

なので、強いてアドバイスを言うんやったらまあ、色んなことをやってみなはれ、ですわ。みんながそれぞれ色んなことをやって、やってやって失敗して、失敗する中で成長していく事が大事なんですわ。でも失敗できるのは今だけ。社会に出てから失敗なんてできませんから。僕自身も、学生のうちにもっと色んなことをやって失敗しておけばよかったなーと思いますし、皆さんにも是非挑戦と失敗の中で成長していって欲しいと思います。そのための力は十分にありますから。

 

 色々やって失敗して、また違う事やって失敗して、ということをぜひ繰り返してください。大丈夫、社会に出たときに成功すればいいんです。とにかくやってみなはれ、ですわ。

 

【編集後記】

今回のインタビューでは、中村先生の個性豊かでユニークな人柄が見受けられ、何よりも私たちにとって多くの学びに溢れた時間であった。中村先生の、私たち若者への暖かな期待を持つその姿勢、そして”やってみなはれ”というメッセージには感銘を受けた。そして最後に、朝早くからご協力いただいた中村先生に、改めてこの場でお礼申し上げたい。